金 聖響SEIKYO KIM
Conductor
Biography
以前、マーラーの命日に9番について書いたことがある。"pure tone"で演奏されていることを再確認。音源自体が決して素晴らしい状態ではないにせよ、1938年のウィーンフィルを聴き取るには十分な音質。ノリントンさんが自身のマーラー1番CDのライナーを書いている。その中でこの件について触れているので少し紹介しよう。要約すると以下のような事が記載されている。
「名ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラーがマーラーが亡くなった1911年あたりから"continuous vibrato"をソロのレベルで一つの流行として広め始めた。少なくとも現代のヴィブラートはマーラー自身が聞くことが無かったのは事実であろう。現代のヴィブラートを用いたウィーンフィルの演奏は1940年以降のものである。そしてハッキリしていることは、1938年のドイツやオーストリアではまだその流行的なヴィラートを"cafe vibrato"と揶揄して否定的であったことだ(少なくとも20年間は)。ウィーンフィルとワルターの録音ではその当時の現状を聞くことができる。コンサートマスターはあのアーノルド・ロゼ、マーラーの義理の弟だ。」
マーラーが亡くなった1911年までの演奏習慣を引き継いだものとして、ワルターの記録が物語るもものは大きい。4楽章のヴァイオリンソロを聞いてもわかるが、美しく響かせる方法はヴィブラートだけではなくボウイングで作られる音色であることも認識したい。シェーンベルグがヴィブラートを「山羊の鳴き声」と言った事実もある。
ワルターの録音の中で、ウィーンフィルと連奏した5番の4楽章の素晴らしい演奏がある。これを聞くと冒頭から最高のpure toneで演奏されていることがわかる。ヴィブラートをかけたとしても程よくて、常時音程を歪めるほどの揺れではない。これを聴いけば誰しも美しいと言うだろうし、表現豊なヴィブラート云々は無いだろう。。。と僕は思う。
実際問題だがヴィブラート論争はいつまでたっても終止符を打つことは出来ないだろう。最後は「趣味」であったり、やるやらないの判断は演奏家のもの。僕としては史実を元にしたというベーシックなアイデアは変わらないし、これからも受けとめる側(演奏者)が許容出来る範囲で挑戦していきたいと思うが、なかなか時間的な問題や、奏法の認知や知識に難があるのは事実。兎に角時間がかかる事なので、許せる範囲で根気よくやるしかない。
僕は決してヴィブラートを否定してるわけではない。以前からの録音でもそうだが、来月発売の「田園」の練習時にもいつも通りアーティキュレーションやバランスについて言及しつつも、一度たりともヴィラートをしないでくださいとお願いした事はない。OEKさんが持つ演奏知識とファンタジーをベースに僕と数年間やってきたことが、そのまま反映されていると思う。逆に「ここはかけましょう」と言った覚えがあるくらい。
書きながらアダージエットを聴いているが、凄いなぁこれ。見事なPURE TONEだよ。和声感ばしばし決まって聴いていて心地よい。そして何よりも、作曲家と音楽のスピリットに満ちあふれていて揺さぶられる。皆さんも是非一度聴いてみてください。大地の歌も良いですよ、もちろん1938年のウィーンフィルね。
追記: PURE TONEやノリントンさんに関しては神崎さんのサイト http://www.kanzaki.com/ で参照してください。情報と知識の宝庫です!